開発のきっかけは、株式会社CARAVANの堤さんからの一本の連絡でした。
以前から理想のお湯割りカップを追い求めていた堤さんは、備前焼の作家さんに依頼し、風合い・機能性ともに完成の域に達した一客を手元に持っていました。それでも私たちに相談を持ちかけてくださったのは、「もっと多くの方に届けたい」という想いから。手轆轤(てろくろ)では、作れる数にどうしても限りがあったのです。
より多くの人の食卓へ届けるため、素材を見直すことにしました。備前焼の温かみは魅力的でしたが、均一な品質を安定して生み出すには、量産との相性に優れた素材が必要でした。たどり着いたのが、400年の歴史を持つ有田焼の白磁です。白磁は石膏型による成形と相性が良く、将来的な絵付けや加飾の展開にも対応できる可能性を秘めていました。
備前焼の「温かみ」から有田焼の「美しさと機能性」へ——それは、より多くの人へ届けるための、必然の選択でした。
課題1
素地(かたち)づくり
開発にあたって課題となったのは、均一な厚みと滑らかな曲線を保ちながら、反復生産を実現すること。その美しいフォルムが故に様々な問題が見えてきました。

型だけでは再現不可
陶磁器は石膏型を用いて作られます。図の左側のように型から抜ける形状だと容易なのですが、酎呑みは入り込んだ美しい曲線が命。どうしても妥協したくありませんでした。
試行錯誤を繰り返し・・・
↓
「真っ直ぐ作って後から削り出す。」
2段階削り+曲線仕上げ
削り出し
均一な厚み。柔らかい曲線。職人の手による繊細な加工が、ひとつひとつの酎呑みに独特の風合いをもたらします。

伸びやかな曲線
職人技の積み重ねで理想のかたちが実現できました。機能性と美しさを兼ね備えた酎呑み。性別を問わず、どんな暮らしにも調和するデザインです。
課題2
原料選び
同じ磁器でも様々な種類があります。陶土は鉄分の含有量によってランク分けされます。白磁の美しさを実現するためには鉄分の含有が少ない陶土を選ぶ必要がありました。

1500万年の時を経て
天草陶石
酎呑みの原料は、熊本県天草地方で採掘される「天草陶石」。約1500万年前、地中に貫入した流紋岩が熱水の働きによって長い歳月をかけて変質し、生まれた石です。天草陶石の最大の特徴は、他の原料を一切混ぜることなく、この石だけ100%単一の原料で磁器になること。世界を見渡しても、そのような陶石が採れるのは天草だけと言われています。1500万年という気の遠くなるような時間が育てた、ただ一つの石。その稀有な恵みを使わせていただけることに感謝しながら、私たちは今日も一つひとつ、器をかたちにしています。

人の目で。一つひとつ。
手撰鉱
採掘された天草陶石は、そのまま原料になるわけではありません。山から運ばれてくる石は、一つひとつ人の目で見極められ、ランクごとに撰り分けられていきます。石の白さ、鉄分の有無、質の純度──熟練の目だけが判断できる基準で、膨大な量の石と向き合う。それは気の遠くなるような時間のかかる、根気のいる仕事です。磁器づくりというと、ろくろや絵付け、窯焚きを思い浮かべる方が多いかもしれません。けれど実際には、器が形になるずっと手前、「石を撰ぶ」ところから、ものづくりは始まっています。この酎呑みには、そうした目に見えない工程の積み重ねが宿っています。

天草撰上
白磁の美しさ。
数あるランクの中から、この酎呑みのために私たちが選んだのは、天草陶土の中でも上位にあたる「撰上(えりじょう)」と呼ばれる陶土です。理由は二つあります。一つは、その白さ。撰上の土は、まるで白玉のようなしっとりとした美しい白に焼き上がり、磁器という素材そのものの美しさを最も素直に表現してくれます。もう一つは、鉄分の含有が少ないこと。鉄分が少ない土は焼成時に歪みにくく、成型した形を、そのまま忠実に再現することができます。
原料は、美しい白に定評のある香田陶土さんにお願いしました。確かな目で精製された撰上の土が、この酎呑みの清らかな佇まいを支えています。

理想の白。
そうして生まれたのが、この酎呑みです。
手に取ってまず感じていただきたいのは、白磁の上品な佇まい。撰上の土だけが出せる、澄んだ白です。そして、口元から胴へと流れる滑らかな曲線。掌に収まると、白玉のようなぽってりとしたやわらかさが伝わってきます。1500万年の時が育てた石、それを撰び抜く人の目、そして撰上という土。すべてが重なって、私たちが思い描いてきた理想の白磁が、ようやくここに実現しました。
課題3
窯元
この酎呑みが生まれた肥前地区には、100を超える窯元が連なっています。400年にわたり磁器を焼き続けてきたこの土地では、窯元ごとに受け継がれてきた得意の技法があります。染付、青磁、釉薬。それぞれの窯元の技を一つの形に落とし込むことで、酎呑みは同じ器でありながら、様々な表情を見せてくれます。まずはレギュラーモデルからのスタートです。今後、窯元それぞれの個性をまとった新しい顔ぶれを、随時お届けしてまいります。どうぞお楽しみに。
































































